PCR検査について考える

日本が他の国々と比べてもPCR検査の数が圧倒的に少ないことは報道でもご承知の通り。安部首相が「1日の実施数を現在の倍の2万件に増やす」と表明したのが4月6日だったが、この1ヶ月で検査が増える様子は残念ながら伺えない。
「検査可能な能力」が現時点でどこまで増えたのかはなかなかつかめないが、発表されている検査数を見ることはできる。
報道では今日の感染者数などと語られる場合が多いが、どれくらいの検査が行われたのかはあまり報じられない。
実態の理解が必要だと思い、4月18日から国・埼玉県・川越市の検査数と陽性判定者数の追跡を始めてみた。
追いかけてみると、その日の数値ではなく累計が更新されることが基本となっていることに加え、国・県の速報は自治体の公表や報告を元にしているため、当日の検査数が含まれない日があったり、前日の数値が修正され前日からの増加分が少なくなったりと、統計として十分使えるのか疑問も感じながら見ている。
私のブログでは、前日の速報値と当日の公表分を単純に比較して増加を見ることにした。

能力の半分にも満たない検査数

結果を見ればはっきりするが、この期間のどこを見ても1日の検査数が2万に達したことはない。それどころか、1日の最大値は4月28日の9,854件、5月9日の11,983件、5月10日の9,984件がピーク。
4月19日から25日の1週間が36,129件で週の1日平均5,161件。26日から5月2日が34,073件で1日当たり4,867件。5月3日から9日が30,470件で1日当たり4,352件。特に、連休中の5月3日から7日の検査数は1千数百件から2千5百件程度。検査が行われていないのか、報告や集計がされていないだけなのかはつかめなかったが、7日の1,103が8日11,983、9日9,984となっているところを見ると連休中の検査数を後から加えた可能性も考えられる。

感染者は減っているのか

検査数は増えているどころか、連休中ということもありむしろ減っている状況で「陽性者数が減った」と言われてもその数字をどう受け取ればよいか首をかしげてしまう。検査が減っているのだから陽性者数は減って当然で、感染者が減っていることにはならない。もちろん、自粛の効果で感染が減っている可能性は十分考えられるのだが、公表されている数値を見ても「正しい状況は分からない」というのが実態だろう。
連休明けに、検査数が増えた時の状況が注目される。

川越市保健所の状況は

国や県の詳しい状況はわからないので、川越市の状況を詳しく見てみた。
川越市が持つ検査器は1サイクル24検体が検査でき、1日あたり午前と午後に1サイクルずつ最大で1日48検体が検査できる。しかし、これはあくまでも物理的限界ということであって、実際にはこの検査は前処理などに人間の技術が必要となる。当然、これを行うのは生身の人間だ。正確さが要求されることもあり、検査の現場は相当ひっ迫していると考えられる。
この間の検査状況は多くても1日20検体程度となっていて、パンクする状況ではないが、技術者の確保は課題だと思われる。これに加えて、民間事業者にも検査を要請する予定とのこと。
件数を増やすには、検体の採取も問題となる。現在は保健所に相談した人が、非公表の医療機関に行って診察のうえ採取するケースと、通常の医療機関で医師が保健所に相談のうえ採取するケースとなっている。
これに加え、埼玉県が発熱外来PCRセンターを設置すると表明しており、川越市も保健所と医師会が協力して検体を採取するこのセンターを準備している。

検査を増やすために必要なことは

PCR検査のためには、検査するための機器、検査に使う試薬、機器を扱う技術者、検体を採取する医師が必要だ。また、この検査は遺伝子を培養する物理的な時間が必要だから、機器と技術者の数が揃わないと検査数は増えない。検体を採取するのも医師だから当然この人員確保も必要になる。
これらを揃えるには、当然ながら対価が必要だ。一連の流れをこなすためには、感染拡大を防ぐため通常の医療と動線を分ける必要もある。医療機関を利用する場合には通常の診療を部分的に止めなければならない。
医療費の抑制のためとして、ただでさえ病床や診療が減らされているなか、何の対価もなく医療関係者が協力できるわけがない。
というわけで、この分野に金銭的な支援を国が提供すべきであることは明らかだ。

国は一刻も早くお金を出せ

国の補正予算における医療支援分1490億円は明らかに桁が不足している。一刻も早く次の手立てを講じるべきだ。赤字国債が発行できない自治体には出せるお金に限度があることを国は知っているはずである。

終わりに

1日48件の検査で市民全体を検査するとしたら、、、ざっと20年かかる計算になる。検査を抜本的に増やすべきというのはその通りだが、日本のPCR検査の技術や能力では、片っ端から検査するというのが現実的でないことは理解できる。論争が尽きないところではあるけれど、どこまで増やすのか、増やせるのか、議論と検討が必要な課題であることは間違いない。

検査の現場から重要な指摘が書かれていたので下記に引用しておく。

PCR論争に寄せて─PCR検査を行っている立場から検査の飛躍的増大を求める声に

西村秀一(国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター・臨床検査科)

https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/report/t344/202004/565349.html